2014年6月27日金曜日

フィンランドの高齢者ケア  認知症高齢者への回想法の取り組み

   
  ユーコラ、インピバラでは回想法を積極的に取り入れている。回想法は1963年にアメリカの精神科医、ロバート バトラー博士が提唱した心理療法です。彼は“高齢者の回想は、死が近づいてくることにより自然に起こる心理的過程であり、また、過去の未解決の課題を再度とらえ直すことも導く積極的な役割がある。して、高齢者の繰り言は意味のあることだと考えたのです。 過去の懐かしい思い出を語り合ったり、誰かに話したりすることで脳が刺激され、また、声に出して話すというコミュニュケーションが重要だと指摘しました。認知症のある高齢者にとっては、非薬物的療法の一つとして、リハビリテーションの一つとして、治療ではなく認知症の進行を遅滞させるという意義で、取り入れられている。



  
   ここでの回想法は介護士を中心にグループ形式で取り組んでいる。トピックスは多様で、あるグループではここタンペレ市の歴史を話題に、 市の歴史書の写真を高齢者に見せて、昔のタンペレ市の様子や、建物、行事などについての質問から彼らの記憶や思い出を語るよう誘導します。そうすると、それぞれの思い出を語り始めたりするが、それらがグループ内で会話にならない、それぞれの思い出の一人語りになったりする場合も多いが、それでも、介護士とのやり取りとなり、明らかに興奮して、感情が高揚するのが認められることがある。ときには、介護士が今日は夏至祭(フィンランドでは最もだいじな季節の行事の一つ)だから、昔どんなことをしたか話してくださいねと、話題を特定する場合もある。夏至祭は大きな行事であるから、それぞれが長年の思い出があるので、普段は無口で口が重いタイプの人でも、辛抱強く誘導すると、やがてはその思い出の一こまを語り始めたりする。フィンランドの昔、ここの居住者(平均年齢は80才を超えているので)が30代前後の生活関連事項や物品の写真カード集(1950年代から1960年代を中心にした)がすでに、回想療法用に出版されている。




その時代の飲み物、お酒やタバコ、アイスクリーム、お菓子などの写真をみて、“ずいぶん飲んだよ、それ”と、声を高くする男性高齢者。シンガーミシンの写真をみて、“この後部の大きなリングは何?”と介護士が質問すると、“こうして、回して、足をこう踏んで、動かすのよ”と身振りをまじえて、説明するのは91才のI。隣のテルトも自分の洋服は若い頃からほとんど手作りだったと、話を入れたりする。

 
   認知症が進行していて、普段充分な会話が困難なほどであっても、古い記憶は確かに脳に残っているので、何かのきっかけでそれを引きずり出したりすることになると、本当に楽しんでそれが次々と思い出されることになるように見える。脳の活性化にも、精神の高揚にも、心の安定をも促すことで、それが、高齢者住宅での生活への適応にもつながるであろう。 それにまた、その語られる思い出や回想を通じて、その人の違った一面を知ったりもすることになるので、介護する側にとっても有効なことと思われる。

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