2014年6月29日日曜日

フィンランドの高齢者ケア  徘徊


  

2014/04/24 NHKニュースによれば、2007年に徘徊した91才の認知症男性が電車にはねられ死亡した際に、その事故に伴う電車の時刻混乱などでJR東海が男性遺族に損害賠償を求めた訴訟で、主として介護にあたっていた妻(当時85才)に監督義務があったとして賠償責任を命じたという.外出を把握できる出入り口のセンサーの電源を切っていたとして、民法上に監督義務を課した。360万円の支払い。長男には見守る義務はなかったとして、その分の請求は却下.これは、認知症高齢者の保護は家族だけの責任なのか、地域で見守る体制を築くことが必要とされる社会の現状ではないのかという、今後の新たな論争を呼ぶのではないだろうか?
調べてみると、認知症高齢者などの電車事故では、鉄道各社は振替輸送費用、人件費などの損害額を本人や家族に請求するのが恒例。列車運休による機会損失費、設備の修理費なども請求されることがあるようだ。国土交通省によれば、2012年に発生した鉄道事故件数811件、死者295人。認知症やその疑いがあり行方不明になる人は年間1万人近く、そのうちの約350人は死亡が確認されたという。鉄道事故での認知症患者の死亡は2005-2013年の8年間で64人にも上るという。

厚生労働省の推計では認知症高齢者数は2012年で462万人、予備軍となる軽度認知障害を含むと860万人にも上り、1/4の高齢者数は認知症を伴っているという。同じ2012年度警察庁の調べでは認知症が原因の行方不明者は9600件も届けられており、その内359人は発見当時に死亡していたという.国は2013年度から認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)で、施設介護から在宅介護への転換を指針とし、50万人をも超えるという特別擁護老人ホーム待機者の実状の一方、住み慣れた自宅で暮らしたいという高齢者の気持ちを尊重し、家族や地域社会で支えていく方向を打ち出した。オレンジプランでは2017年度までに、認知症を正しく理解し、認知症高齢者とその家族を温かく見守るサポーターを600万人に増やすということだが。認知症高齢者の徘徊の介護に困っていても、誤解や偏見を恐れて、助けを求めない家族が少なくない現状では、そうした人々を実際にどう地域で見守るのか具体的な取り組み対策が必要である。カナダのアルツハイマー協会の2010年度の報告によれば、向こう30年間で現在の2倍、110万人、人口の3%近くのカナダ人が認知症高齢者になると予測している。その推計に基づいて認知症の社会、保健対策施策を建てなけれならないとして、さらに詳細な調査報告をした(対象はノヴァスコチアの介護施設の65才以上の13万人)。国の長期在宅介護保健を受給している高齢者(65才以上)1/520%はアルツハイマーまたはその他の認知症患者である。ナーシングホームや長期療養介護施設に入所している高齢者では認知症患者の割合は3/557%にも及ぶ。ナーシングホームや長期療養介護施設に入所に至った原因で最も上げられているのが、認知症による徘徊で家族などの介護が困難になったとしている。フィンランドでも75才以上の国民の統計では認知症の進行が原因で長期療養介護施設に入所する割合が、高いという数字が報告されている。1人またはパートナーと自宅で生活しているのが基本のフィンランドで、どれだけ近隣住民の助けがあるのであろうか?

2014年6月27日金曜日

フィンランドの高齢者ケア  認知症高齢者への回想法の取り組み

   
  ユーコラ、インピバラでは回想法を積極的に取り入れている。回想法は1963年にアメリカの精神科医、ロバート バトラー博士が提唱した心理療法です。彼は“高齢者の回想は、死が近づいてくることにより自然に起こる心理的過程であり、また、過去の未解決の課題を再度とらえ直すことも導く積極的な役割がある。して、高齢者の繰り言は意味のあることだと考えたのです。 過去の懐かしい思い出を語り合ったり、誰かに話したりすることで脳が刺激され、また、声に出して話すというコミュニュケーションが重要だと指摘しました。認知症のある高齢者にとっては、非薬物的療法の一つとして、リハビリテーションの一つとして、治療ではなく認知症の進行を遅滞させるという意義で、取り入れられている。



  
   ここでの回想法は介護士を中心にグループ形式で取り組んでいる。トピックスは多様で、あるグループではここタンペレ市の歴史を話題に、 市の歴史書の写真を高齢者に見せて、昔のタンペレ市の様子や、建物、行事などについての質問から彼らの記憶や思い出を語るよう誘導します。そうすると、それぞれの思い出を語り始めたりするが、それらがグループ内で会話にならない、それぞれの思い出の一人語りになったりする場合も多いが、それでも、介護士とのやり取りとなり、明らかに興奮して、感情が高揚するのが認められることがある。ときには、介護士が今日は夏至祭(フィンランドでは最もだいじな季節の行事の一つ)だから、昔どんなことをしたか話してくださいねと、話題を特定する場合もある。夏至祭は大きな行事であるから、それぞれが長年の思い出があるので、普段は無口で口が重いタイプの人でも、辛抱強く誘導すると、やがてはその思い出の一こまを語り始めたりする。フィンランドの昔、ここの居住者(平均年齢は80才を超えているので)が30代前後の生活関連事項や物品の写真カード集(1950年代から1960年代を中心にした)がすでに、回想療法用に出版されている。




その時代の飲み物、お酒やタバコ、アイスクリーム、お菓子などの写真をみて、“ずいぶん飲んだよ、それ”と、声を高くする男性高齢者。シンガーミシンの写真をみて、“この後部の大きなリングは何?”と介護士が質問すると、“こうして、回して、足をこう踏んで、動かすのよ”と身振りをまじえて、説明するのは91才のI。隣のテルトも自分の洋服は若い頃からほとんど手作りだったと、話を入れたりする。

 
   認知症が進行していて、普段充分な会話が困難なほどであっても、古い記憶は確かに脳に残っているので、何かのきっかけでそれを引きずり出したりすることになると、本当に楽しんでそれが次々と思い出されることになるように見える。脳の活性化にも、精神の高揚にも、心の安定をも促すことで、それが、高齢者住宅での生活への適応にもつながるであろう。 それにまた、その語られる思い出や回想を通じて、その人の違った一面を知ったりもすることになるので、介護する側にとっても有効なことと思われる。

2014年6月26日木曜日

フィンランドの高齢者ケア 訪問サービス


  フィンランドの朝刊 ヘルシンキサノマットHelsingin Sanomat 6-25-2014 Pälvi Punkkaによれば、高齢者宅訪問サービスはヘルシンキ市だけでも月に8000件以上行われているというものの、人口高齢化の急激に進行するフィンランドの実状をカバーできないという。この記事によれば、高齢者宅訪問サービスといっても実状は40%以上がそのサービスに費やす時間、平均16分未満であり、充分な介護ができていないと指摘している。そんな短時間で一体どのようなサービスをできるというのだろう。ベッドから起き上がらせ、トイレで服を着替えさせる時に、薬の服用を確認したり、次の分を準備したりと、大急ぎですませようとすることもあるようだ。週に1度のシャワーさえできない高齢者がいるとも。これは、その訪問介護士が少なくとも午後6時には帰宅したいので、1日の割当を大慌てでするためだとも指摘している。



 85才以上の高齢者が利用する介護サービスの内訳(2013年)ではどの都市でも訪問サービスが1/4ほども占めている (この棒グラフの赤の割合:訪問サービス)。これは、フィンランドでは90%近くの高齢者が自宅で一人または配偶者やパートナーと暮らしているためである。残念ながら、保健センターや病院に入院しても、出来るだけはやく退院させられてしまうようだし、それに夏期期間は対応時間や人員を減らす機関も多いと指摘している。少なくとも数週間の有給休暇の保証されているフィンランドの実状なのだろうか。この記事は極端な事例なのか、今後さらに検討したいと思う。