2014年5月31日土曜日

山中教授の講演 iPS細胞の高齢者への応用

   
   本日タンペレタロ、昨年はフィンランドの国家のクリスマスパーティも催された市のコンサートホールでノーベル賞受賞者京都大学山中教授の講演会がありました。一般公開で、前もって参加登録をしなければなりませんが、大勢の観衆が訪れました.タンペレ大学及びタンペレ工科大学のバイオメディカル研究所との2006年から共同プロジェクトを持っているそうです。今回はまず山中教授がiPS細胞を使って、どのような研究プロジェクトが進行していて、現在どの程度その研究成果が実用化に近づいているかを、1時間ばかり明確なコンセプトに基づいた講演をされました。英語もとても簡潔でわかりやすく、聞き易く、感銘したしだいです。20年以上前にポスドクで米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校、グラッドストーン研究所でiPS細胞に巡り会ったこと。奈良先端科学技術大学院大学で良い研究環境に恵まれたこと。京都大学にiPS細胞研究所をもち、優秀なスタッフとともに、研究に専念していることなど。

講演の中で、私が興味を持ったのは、高齢者に応用可能な3つの研究プロジェクトです。
1.パーキンソン病の治療
2.加齢黄斑変性症の治療 
輸血用血液の確保

 パーキンソン病はアルツハイマー病、認知症とともに高齢者の認知能力及び体の機能障害をも引き起こし、医薬的治療のないやっかいな難病の一つで。原因は脳内のドーパミン神経細胞が減ることでのドーパミン量の減少による手足の震えや体の強ばりなどの運動障害。このドーパミン神経細胞を患者由来のiPS細胞で増殖して、直接脳内に移植しようというのがプロジェクト。実際には細胞の大量培養法の開発と腫瘍化の危険性がある細胞の排除という問題があるそうですが、これらを克服し、マウスでの実験は成功しているそうです。毎日のようにパーキンソン病の高齢者を目にしている私には、心待ちのことに成るでしょう。

 加齢黄斑変成症は網膜の中心部にある黄斑が老化し、視機能が低下する疾患です。見えている景色の中心がつねに歪んで見えるようになったりし、多くの高齢者がいずれ失明に至ります。欧米では成人の失明の第一原因に成っています。根本的な治療法はまだ見つかっていません。このプロジェクトでは患者の皮膚細胞から作製したiPS細胞に由来する網膜色素上皮(RPE)シートを、異常な新生血管や血の塊を取り除いた後に移植するというもの。このプロジェクトでは、腫瘍化の危険性に対しては、眼であるため確認し易く、そしてその腫瘍はレーザーですぐに対処できるので、実用化は近いかもしれません。

 高齢化の進む先進国、特に日本では現在23%が65才以上のいわゆる高齢者人口.これが、2050年には40%にも到達すると予想されています。ここフィンランドでも現在の18%が同じく25%におよぶと推測されています。ということは、それ以下の年代層人口が減少するということで、予想される医学分野の深刻な問題の一つが輸血用血液が足りなくなるということだそうです。確かに、輸血できる人の人口の割合が少なくなるのだから当然そうなりそうです。病気による場合でも、事故による場合でも手術に際しての輸血は必要ですから、これは困ったことです。そこでiPS細胞でドナー献血に依存しない血小板や赤血球などの輸血製剤を増殖しようというものです。これだと特殊なHLAタイプやABO以外のまれな血液型にも対応できるでしょうし、また、放射線照射後に輸血を行うので、腫瘍化の危険性も予防できます。大量のストックを常備できるようになるかもしれません。


ところで、患者由来のiPS細胞ということですが、患者が高齢者の場合は細胞自体の高齢化が問題にならないのでしょうか?山中教授は、大丈夫、増殖を始めると細胞は生まれ変わると説明されました。生まれたての新細胞が高齢者を活性してくれるのかしら。とにかく、なんだか明るい希望のでてくる講演でした。
タンペレ大学では心臓病などの治療、タンペレ工科大学ではiPS細胞の増殖環境の改善用機器の開発なども行っているということです。

0 件のコメント:

コメントを投稿