2014年5月19日月曜日

フィンランドの高齢者ケア 2 ラヒホイタヤ

            フィンランドの高齢者介護で中心的な役割をしているのは、ラヒホイタヤ(lähihoitaja)というケア専門職員である。
高齢化による介護ニーズに対応するとともに,施設ケアから在宅ケアという政策に即するべく、この職業資格は1993年にそれまでの准看護師、精神障害看護助手、歯科助手、保母、保育、ペディケア士、リハビリ助手、緊急救命士、救急運転手などの保健医療部門資格や知的障害福祉士、ホームヘルパー,日中保育士などの社会ケア部門を統合し、新たに社会,保険医療基礎資格として創設された。3年間の養成期間(2年間の一般教養,職業的基礎学習,3年目での専門課程の学習、実技、演習を履修し、習得される。この資格教育により、児童福祉分野から高齢者介護分野と多分野のケアニーズに対応、移動できる柔軟な人材市場を確保できる。また、この資格によって、介護従事者は比較的高いレベルの教育、訓練を受けているので,フルタイム、自治体雇用の職員率が高く、賃金水準も比較的高く,そのため定着率も高い。現在(2010)フィンランドでは6万人の有資格者を保有する.
高齢化が急速化するフィンランドにあって、施設ケアから在宅ケアという政策方針の転換に従って、要介護高齢者の居住の場は施設(老人ホーム,長期療養病棟)からサービスハウスと呼ばれるケア付き住宅に移行しつつあり,認知症高齢者に限れば46.2%が施設である老人ホーム、または24時間ケア付きサービスホームに居住している。この施設やサービスハウスで活躍するのがラヒホイタヤである。
  タンペレ市のコウクニエミ高齢者コミュニティーの24時間ケア付きサービスホーム、ユーコラ、インピヴァラでは両棟合わせて,90人ばかりの高齢者が居住するが,70人ばかりのライヒホイタヤが3時間帯交代でケアしている。サービスホームは基本的にグループホームとして機能していて,ユーコラでは各階に14,5人の高齢者がそれぞれのシャワー、トイレ付き個室に居住する。共通エリアにはダイニングルーム、リビングルーム、エクササイズスペース,ベランダとナースステーションがある。ラヒホイタヤはモーニングシフト(7時−15時)2人,ディシフト(13時−21時)2人、ナイトシフト(21時−7時)1人の3時間帯に渡る。ディタイムにはさらに、アクティビティ、フィジカルセラピストなどのケアスタッフがいる。
  ラヒホイタヤスタッフの任務は個々の自立を支えるための補助者的な位置づけであるから、相手が認知症高齢者であっても、あくまでも大人として対等に接し、個々の生活を第一に考えることにある。まず手を貸すというのではなく、見守りが介護の基本であり、高齢者の生活をいかに自然体で過ごせるようにするかということが優先される。
  居住者はそれぞれの生活パターンに従い生活しているが,朝の起床で、介護が必要な人には、ベッドからシャワーへの移動の介護、洗面、着服の介護がなされる。自分でできる人はできるだけ、自分の自由に任せる。フィンランドでは、朝はシャワーを浴びるというより,洗面、ビデというのが一般のようである。
  食事は高齢者がダイニングに ワーカーや車椅子にせよ、自分でやってきて、自分で摂る。一応朝食、昼食、夕食の3度のメインとその間のコーヒータイム、就寝前の軽食などが緩い時間帯で設定されているが,強制的なことはない。ゆっくり起きた日には遅い朝食をとってもよいし、また、午後の長い時間をダイニングでコーヒータイムとして、居住者同士おしゃべりで過ごす高齢者もいる。食事はコミュニュティーの調理センターで調理され、朝、昼、夕方に運ばれ、ラヒホイタヤスタッフが配膳するようになっている。また、飲み物として用意される、牛乳、コーヒーやティーなどはダイニングルームに備えられたキッチンスペースで,準備される。配膳用の食器の洗浄は各階ごとに設置されているディッシュウォシャーで、なされる。床やゴミ箱などの清掃は清掃を担当するスタッフがいるが、ラヒホイタヤスタッフはダイニングテーブルをきれいにし,テーブルクロスを取り替えたり,花を飾ったりと環境を整えることに専念する。ティータイム用のケーキやパンを焼いているスタッフもいる。
この食事のときに、居住者が摂取している薬を管理するのも、だいじな仕事の一つ。食事の前とか、食事中とか、食後とかそれぞれの居住者ごとの記録がセットされていて,毎日チェックされている。
  

  毎日の服装は住居者にとって、男女差別無くだいじな生活のパターンのようで、ライヒホイタヤスタッフはその相談にものり、スカーフやネックレスの選択のアドバイス、新しいスラックス、ズボンの長さの調節などもしている。高齢者は暑さ寒さに敏感なものなので,建物自体はセントラルヒーティングシステムで快適温度に保持されているが,ちょっと寒いと感じてコートやジャケットを羽織ったり,また、暑いと感じて,カーディガンをぬいでと、けっこう忙しく,服装が変わっている。それに対して,スタッフは注意深く観察しており,必ず“まあ、ぴったりなカーディガンね”などとの声かけを忘れない。でも、決して“それはちょっとヘービーよ、厚すぎよ”などの否定的なコメントを聞くことはない。居住者のランドリーはラヒホイタヤスタッフがランドリールーム備え付けの洗濯機,乾燥機で個人別に行う。
  サウナはフィンランド人には欠かせないものの一つで、少なくとも週に1度はスタッフに伴われ,または独自でサウナタイムをとっている。時間は朝,昼、夕方各人の自由で、ときどき、サウナから上がった艶やかに上気してさっぱりしたガウン姿の居住者を廊下でみかける。サッパリしたわねーと声をかけると、どの顔もうれしそうに頷く。 
  あくまでも、個々の生活を尊重しているのか、アクティビティといっても、全員があつまってというものはなく、声をかけるが、やりたいひとがやるという姿勢は崩さない。絵画クラスやクラフトクラスなどもその範囲である。原則的に火曜日と木曜日午前に地下の共通アクティビティルームでスケジュールされているが,参加者は日によって異なる。
  フィンランド人のコーヒー消費率は世界1ということで、食後にも、コーヒータイムにほんとによくコーヒーを飲むのを見かけるが,それでも高齢者は脱水症状を起こし易いものなので,常に、水やジュースを摂るように勧めるのも、スタッフの仕事の一つのようである。確かにアメリカに長い私にとっては、フィンランド人の1回の摂取量は少ないので,回数を多くした方が良いのであろう。
  時間交代にはスタッフが申し送り事項をデスカッションするのはもちろんだが、コンピューターにその日の居住者の記録をインプットするのもだいじな任務である。摂取した薬の記録,食事の時間帯、衛生面でのコメントと時間をかけて丁寧に書き込んでいる。
居住者の多くは認知症を伴うので、徘徊ではないが、廊下を行ったり来たりしていることもあるし、夜でも睡眠が短い人では、2,3時間ごとに起きだし、歩き回ることもある。その度に、スタッフは見守り、ゆっくりと自分の部屋に導いている。
  オブザーバーとしてここに通いだして、まだ日の浅い私の観察だが,ゆったりと流れる居住者の静かな日々をこのラヒホイタヤスタッフの辛抱強い、注意深い目が支えていることには間違いないだろう。



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