2014年5月10日土曜日

フィンランドの高齢者ケア レポート1:ハイテクを駆使して

      確実に高齢化の進む先進諸国.その中でフィンランドはEU連合国の中で、最も急速に高齢者人口の割合が増加している.2050年には総人口の4分の1が65歳以上の高齢者に到達すると予想されている(1、OECD Stat, 2012).EU連合国の65歳以上人口の増加が平均22%に対して、41%と倍近く、群を抜いている。社会福祉、健康福祉制度が整っているとされる北欧国家にあり、実際に公的医療に対する市民の満足度が高いフィンランドではあるが(2),高齢化の及ぼす財政的圧迫はその保健ケアサービスを根本から揺さぶり始めている。
      北欧の社会保障は、国が年金、給付などの所得保障政策,地方自治体が社会福祉、保健ケアサービスを供給という役割分担をしている。フィンランドではその社会福祉、保健費用は地方自治体の歳出の51%(3)を占める(The Primary Health Care Act 66, 1972; The Status and Right of Social Welfare Clients 812, 2000)。2001年に社会保健省と地方行政協会の公布したフィンランドの高齢者に 対する高品質の介護活動に関する国家的枠組み”では、高齢者ケアでは人間の尊厳,公平と平等、個別性、自己決定の権利などが尊重されている。高齢者ケアは福祉補助法による困窮者ではなく、社会サービスの顧客として,オープンケア(地域ケア)の充実が目標とされる。
フィンランド全体で336に分割される地方自治体(2013年)であるが、首都ヘルシンキ市を中心とした南部地帯の都市に人口が集中し、地域的格差が進行しており、人口に対しての税収入の少ない自治体の財政負担を頻拍している。そして、この社会保険費に占める高齢者ケア支出の増加は高齢者ケアサービスを施設ケアから在宅ケアへと転換させている。それに付随して、自治体同士の連合、コストダウンを計っての民間サービスの購入、長期高齢者ケアに対する国の社会、健康福祉費の見直しなど、自治体とサービスの構造改革が進行中だ。
        伝統的に核家族のフィンランドでは高齢化しても子供に頼るという意識は低く、75歳以上の高齢者の9割は自宅で独立して生活している。それでも、確実に肉体的な認知的な機能低下が進むが、その場合には自治体の提供するホームケアサービスや生活支援サービスを利用することができることになっている。このサービスにはソーシャルワーカーや保健医療スタッフの訪問看護サービス、ショッピングやシャワーなどの介護サービス、住居清掃など生活関連サービスなど多種の個々のニーズに応じた生活支援、またミールサービス(基本的に3度の食事の配達)、タクシーなどを含む交通移動補助サービスも含まれる。しかし、実際にはそのサービスを利用している人がひどく少ないのに驚く。統計的に1割ぐらいの高齢者しかそのサービスを享受していないのである。また、自治体では家族を始めとするいわゆるインフォーマル介護者に金銭手当を支給するシステムを施行しているが、たった4%の高齢者家族しか、利用していない。各国に比較すると高い税金を長年強制的に払ってきたというのに。これも個人の独立性を尊ぶフィンランド人の精神性の現れなのであろうか?
     さらに、身体的及び認知的な機能低下が進行して,一人での日常生活が困難になると、施設サービスに移行する。これには24時間介護付きのシェルターハウス(施設サービスを利用する高齢者の10%)、老人ホーム(施設サービスを利用する高齢者の4%)、健康センター(フィンランドでは国民すべてがいずれかの自治体の健康センターに登録されている。健康センターにはリハビリテーションのほか、医療、入院施設も付随していて,プライムケアをおこない、さらに高度の医療治療が必要な場合には健康センターを通じて,高度専門医療機関に紹介されるシステムになっている)の長期療養病棟(施設サービスを利用する高齢者の2%)がある (FinStat, 2008)。自治体を中心にした高齢者ケアの実態を探りたいというのが、フィンランドにきた主な動機であるが、これから少しずつ知り得た知識をまとめて、報告していく予定である。


    フィンランドで3番目に大きなタンペレ市は2011年21万人(215,168)の人口を包容し,その内16.8(36,127)が65歳以上、75歳以上では8.5%となっている。フィンランドの高齢者福祉政策の流れの一環として,ケア付きサービスハウス、グループホームの促進化が進んでいるが、タンペレ市では、それも含めた高齢者居住地域の構築という独自の構想の下に高齢化に伴う市制を育みつつある。そのモデル地域の一つに私の関わるコウクニエミ高齢者コミュニティーがあり、そこではいろいろな高齢者ケアを模索している。その一つとしてデジタルテクノロジーを利用した要介護高齢者、特に認知症高齢者を中心にした施設ケア付きサービスハウスの試みを今回は紹介したい。

  コウクニエミ高齢者コミュニティーは身体機能が低下して、日常生活が独立してできなくなった高齢者を対象にした高齢者ケア施設として1886年に開設された。リハビリテーション施設と整形外科の患者(主に股関節骨折)病棟を含む6つの短期及び長期滞在ホームから成っている。元々タンペレ市は2つの大きな湖に囲まれた市であるが,コウクニエミ高齢者コミュニティーは2つのうちの大きな湖に面した、広大な敷地面積に今では800人程の高齢者が集う、北欧、ヨーロッパで一番大きな高齢者ケアコミュニティーである。短期滞在ホームでは介護をする家族に支障ができた場合に高齢者を収容できるサービスも含まれている。むろん、介護疲れによる介護人のバーンアウトも対象になり,介護人に休養をサービスすることも含まれている。 リハビリテーション施設にはこのコミュニティー以外の外部からも高齢者がアクセスできるように成っている。3ヶ月以上の長期滞在ホームにはこのコミュニティーの中心になっていたコウクニエミ病院を中心に必要な医療検査センター、医者のコンサルテーションなどの総合医療診断、専門医サービス、歯科病院も含まれる。また、このコミュニティーに属する高齢者、施設で働く職員に配食、給仕する給食施設棟、喫茶店、図書館、施設に必要な家具を収納、修繕する部署、アクティビティなどを行う施設、集会や行事に対応した音響効果の付属した宴会施設をふくむ大会議室なども整備されている。そしてこのコミュニティーのユニークさの一つは、それらすべての建物が地下にある延長2kmにもおよぶトンネルによって連結していることである。まさに、寒くて、長い白夜期間中にも外に出ること無く、滞在する高齢者や職員が行き来できるようになっているのである。

 

  フィンランドでは老人ホームが質の高い住空間と安心、安全の備わった賃貸型の高齢者住宅サービスハウスに転換されつつある。入居者は家賃、食費、ケアなどの各種サービス費用を支払う。国の高齢者医療サービスの方向性転換に伴い,タンペレ市はこのコミュニティーを高齢者居住区として、収容の場としての高齢者福祉施設から,オープンケア(地域ケア)という概念に基づいた生活の場としてのコミュニティーに移行させようとしている。その中にあり、2014年1月に4階建ての長期滞在24時間ケアシェルターハウス、ユーコラ、インピバラの2棟が新たに建設された。この施設のユニークな点は2階から4階まではタンペレ市に所属し,1階は非営利NPOが運営していることであり,これも自治体主体の高齢者ケアに国の社会、健康福祉サービスをとりいれ、国の経済的負担を増加しようとする新しい観点の導入モデルと成っている。 ユーコラ棟では各階に14の1人用居室と1つの2人居室がある。54平方メートルの居室にはシャワーとビデ付きトイレ、洗面台、ベッドと服などの収納キャビネットが基本として装備され,後は入居者がそれぞれにその好みに応じてテレビ、ラジオ、コーヒーテーブル、リクライニングチェア、飾りダンスなど自由に持ち込めるようになっている。できるだけ自分の家としての感覚を残した居室にするというのが、生活の場としての高齢者福祉士施設のガイダンスなのである。コモンスペース(共同空間)として、各階には3度の食事やコーヒータイムをすごせる食堂、100インチの大スクリーンモニターTVとソフア、リクライニングチェア、コーヒーテーブルを備えたリビング,エクササイズエリア、ランドリールーム、そしサウナが付随している.されに、入居者の毎日摂っている薬の保管部屋と介護職員、看護師のナースステーション。                                     

入居者の平均年齢はおよそ84歳。施設入居基準が独立して日常生活を自宅で持続できなくなったことにあるので、ベッドでの寝たきりの入居者もいるが、おおむねは車椅子やワーカーで食堂まで、食事に来られる身体機能が低下している高齢者である。そして、70%以上が程度の違いがあるが、認知症、アルツハイマー症、パーキンソン症などの知能低下を伴っている。ユーカラ棟では入居者全員がケアウオッチを常時利き腕の反対腕にはめている。入居者の居室のベッド枕元に設置されたベースステーションと一体のケアスタッフとのコミュニュケーションシステムであり,高齢者が現在地を知らせるモニターシステム,非常時のアラームシステムであり,さらに、ウェルビーングシステムとして、心拍数の変化や日常の身体機能、睡眠状態などが常時モニターされて,そのデーターはワイアレスで即時にナースステーションのコンピューターワークステーションにトランスファーされている。                                  
            
       
         

    例えば,ケアスタッフにリクエストしたい時には、ケアウオッチのボタンを押すと,担当ケアスタッフの携帯電話スクリーンに誰が、どこで,いつリクエストしているかが表示される。それを確認したスタッフが短時間で対応できるようになっている。また、ベッド枕元のベースステーションを通じて会話も可能である。心拍数などの身体機能モニターリングによって、ベッドに横になっているのか,歩いているのかなども知ることができ、睡眠の深さをモニターする機能も搭載されているので,睡眠パターン、時間、睡眠度の浅さ、深さなども常時モニターされてデーターベースに記録されるシステムと成っている.このサーカディアンリズム(概日リズム)ソフトによって、 また同時にワークステーションデーターに記録される食事、投薬記録とともに入居者の体調がモニターされる。1日を3つの時間帯シフトに分けられるケアスタッフ間の情報伝達の手段になり,細かいケアが可能になるようになっている.                                                                         
                   
ユーコラ棟では居室とシャワールームのライトは自然消灯型で、スイッチ操作以外でも消灯する。室内温度、湿度は一定に設定されており、防音装置の施されている建物全体は常時静かである。                                 


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